【美術刀特注講座第7回】 鞘塗について |
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美術刀特注講座の第7回、「鞘塗」です。 バリエーションが豊富なんで、2パート(予定)に分けて解説していきます。 ■はじめに、鞘素体について■ 居合刀の場合は刀身の形状、サイズに合わせた鞘があるわけですが、 美術刀の場合は過去講座のとおり刀身の長さ、幅がほぼ一定ですので、 鞘素体は大刀用、脇差用、あと二尺用くらいです。 (`ー´)<細い形状のコジリ使った場合のみ、細身の鞘になったりするんだが…まぁ、その話はコジリの時にしますかね。 (;´ω`)<そーねー、ここでしてもあまり意味がないなぁ。 あ、それからたまーに勘違いされることがあるんですが、 美術刀でも鞘は木製です。 今のところ、少なくとも当店の日本刀状の商品で樹脂製の鞘が使われているのは「拵短刀」シリーズだけですね。 (`ー´)<鞘両端の抑え部品だけは樹脂製だけどね。 ■鞘塗の基本■ 美術刀の鞘塗は非常に多岐に渡ります。その自由度は、ある意味居合刀より高いです。 (`ー´)<気軽に出来る範囲でいえば美術刀圧勝っすよ。 (;´ω`)<…まぁ、居合刀が本気出すと本漆塗りが出てきますんで、それには勝てないですけど。 鞘塗は大雑把にいうと「塗り方」と「色」の組み合わせで構成されます。 例えば「赤梨地塗り」といえば色が「赤」で、塗り方が「梨地」っつーことですな。 このふたつの理論上可能な組み合わせまで含めて全て挙げるととても大変なことになるんで、 この場では「塗り方」を主に紹介していきます。 各々の「塗り方」について、実際にやったことのある「色」のほうも併記していきますが、 掲載した以外の色については、出来るかもしれないし、出来ないかもしれません。 やったことないんでメーカーに訊いてみないとわかんない色とかもあります。 (`ー´)<まぁ、やってみたい色とかあったら訊いてもらえれば。 (;´ω`)<ピンク色とか言われると出来るかどうか全く不明だしなー。 (゜Д゜)<ま、メーカーが出来ると言った場合でも、その希望者には人柱になっていただくことになりますけどね? ということで、ここで紹介しますのは、 ある程度色のパターンを試したことのある、そこそこバリエーションが確定している「塗り方」になります。 (`ー´)<あんまり確定してないのは後日「その2」でやります。 ■鞘塗の個体差■ 鞘塗には、一本一本、またはロット毎に差があります。 塗装ですし、機械が自動で塗ってくれるわけではないので、個体差があるのは当然であり仕様です。 (`ー´)<まぁ、個体差を無くそうと思ったら機械に託すかパターン印刷したシートを鞘に貼り付けるしかないかな。 (;´ω`)<そういやDENIXの鞘は基本的にシート貼りだな。 ウソみたいだろ…全部同じ鞘塗(赤松皮塗り)なんだぜ…これ…。 まず、前回の松皮塗りや雲掛けに顕著であるように、塗り方による個体差があります。 特徴が強く出るか弱く収まるか、密に出るか疎に出るか等で大分見た目が変わってきます。 どれだけ顕著かは塗り方によりますが、個体差がない塗り方はほぼ無いですね。 また、色そのものの差もあります。画像は過去に紹介した、沖田の鞘塗の個体差例。 黒や白なら色の差が出ることはありませんが、それ以外についてはやはり個体差が出ます。 まぁ、既製の塗料をそのまま使えるような色なら差も出にくくなりますが、 それでも塗料製造元で変わる場合もありますし。 店頭在庫のある商品なら見比べて選んでもらうこともできますが、 特注では鞘のみ何本も製作して「一番いい鞘を頼む」というわけには参りません。 その辺、何卒予めご了承下さい。 ■というわけで「塗り方」の紹介っす■ ちなみに塗り方の名称は多くが漆塗りの名称を借用していますが、 実際に漆塗りしているわけではありませんので予めご了承下さい。あくまでも塗装です。 石目塗り 石の表面のようにザラザラしてるから石目塗り、という名前なわけですが。 居合刀の鞘塗では常に単純に単色ザラザラの塗りですが、 美術刀の、このメーカーの石目塗りは「ベースの色+黒斑点」という鞘塗になります。 上画像は上から黒石目(黒熊など)、茶石目(芹沢鴨拵)、赤石目(坂本龍馬拵)です。 ウチで扱った鞘塗ですと、他に紫石目(長曾我部元親拵)ってのもありましたな。 比較的安定しており、また安価な鞘塗です。 上石目 普通の石目塗りよりも、フラットで大人しい鞘塗です。居合刀の黒石目塗りにより近い感じ。 恐らく寒芒弐型の鞘塗(白石目)も、分類上はこちらと同じと言っていいでしょう。 黒と白以外が出来るかどうかは今のところ不明です。 ちなみに普通の黒石目と上石目(黒)を並べるとこんな感じ。 画像上が普通の黒石目、下が黒の上石目。 まぁ違うのはお分かり頂けるかと。 なお普通の石目より価格設定は高いのでご注意。 (`ー´)<まぁ「上」だしな。 呂塗り 「呂」は元々「蝋」から来ているらしいですが、ようは単色ツヤツヤの鞘塗です。 単色でツヤ仕上げするだけですので色バリエーションはそこそこあるかと思われますが、 単純ゆえにあまり大胆な色は使いづらいので、ウチで普段やるのは、 上画像の黒呂塗(姫鶴一文字リアルタイプなど)、紺呂塗り(織田信長拵など)、あとは朱呂塗り(A7M1)くらいでしょうか。 ちなみに呂塗り自体やや価格高めの鞘塗ですが、紺呂塗りについては他より更に一段高価な設定になってます。 (゜Д゜)<紺は自社でやると色が安定しないんで、外注が標準なんですってよ。 松皮塗り 松の木の表面のようなヒビワレが出るのでこんな名前になってます。 原則として下地色+黒という色構成になります。 ヒビワレについては完全に自然任せなので、ヒビの細かさや、どれだけ下地の色が強く出るかは、 100%運任せです。 松皮塗りについては過去に集中的に実験しておりまして、 画像の黒/赤/紫/青のほかに、この辺とその翌日で白とか金とか紺とかやってます。 当時はやってないけどたしか緑とかも出来たかと。 梨地塗り 元々梨地、梨子地というと金色になるのが普通なんですが、 見た目が完全に梨地調で違う色なので、こういう呼称にしています。 上画像の赤(山査子や蘭、島原他、多くの商品に使用)のほか、 過去様々な色を試して(金、緑、白とか)いますが、現在では難しい色(青、紫)もあります。 微塵地 通称ラメ塗り。ある意味、梨地に難しい色が増えた代わりに生まれた鞘塗です。 いわゆるラメっぽい感じは好き嫌いが分かれるところでもありますが、 画像の通りかなり多様な色が出来ます。過去まとめて実験した記事はこの辺。 雲掛け そもそも画像のふたつは同じ鞘塗なのか?といわれると、厳密にはちょっと違って、という話になったりするんですが、 ややこしいことを説明する意味があまりないので、大雑把に同じとしておきます。 下地を塗ったその上に、細い線をフリーハンドでササーっと掛けていった鞘塗ですね。 下地と掛け線の二色構成で、バリエーションは豊富です。 ただご覧の通りの鞘塗ですので、見た目は全く安定しません。 一応実例としては上画像の「黒に赤雲(村正)」「黒に黒雲(柳生十兵衛拵)」のほか、 「赤に金雲(豊臣秀吉拵)」「緑に金雲(石田三成拵)」「青に金雲(直江兼続拵)」 「黒に銀雲(兼定のバリエーションのひとつ)」「赤に赤雲(小山田信有拵)」とかがありました。 飛沫 読みは「しぶき」ですね。いや「ひまつ」でもいいですけど。文字通り、飛沫のごとく塗料を散らした鞘塗です。 多分鞘から離れたところから、塗料を垂らすなり飛ばすなりして着色していると思われます。 今のところ当店商品では「柘榴」の黒呂地に赤飛沫しか例がないかと思われますが、 下地も飛沫も、他の色が出来ると思われます。たぶん。 (;´ω`)<なんか昔ほかの色やったことがあったような…気のせいかなー? 散らし塗り 下地の色に別の色を重ねて散らした塗りです。 飛沫との違いは、恐らく鞘から塗料を離したりはせず、直接塗ってる(と思われる)点ですかね。 画像は「前田慶次郎拵 弐(車透かし鍔)」の金地赤黒散らしと、「加藤清正拵」の銀ラメ地黒散らし。 また、沖田の改]や凍桜の黄金/翠霞で各色ラメ地に黒散らしをいくつか試しています。 下地の色は色々出来ると予想されますが、散らす色については制限がありそうです。 (;´ω`)<散らす色がちゃんと下地の色を上書きできないといかんからな。 (`ー´)<隠蔽力の強い塗料でないといかんな。 潤み塗り 沖田(通常版)の鞘塗です。梨地から黒い斑点を抜いたような色合いですね。 武装商店が始まるよりも前から存在する鞘塗ですが、わりと最近になって他の色もそこそこ出来るのが判ってきました。 今のところ画像の赤の他に、青、緑、紫、オレンジなどが確認できています。 刷毛目塗り 文字通り、刷毛の跡を意図的に残したような鞘塗ですね。 今のところ、画像の斎藤一拵の鞘の黒、あと令法の鞘の黒ツヤ掛けのほか、 確か昔の赤い山本勘助拵が赤刷毛目塗りだった気がします。他の色については不明。 (`ー´)<ヤマカンの赤刷毛も、現在出来るかどうかは不明です。 蛭巻風 鞘のみ写した画像が無かった+いま店頭に現物がないので仮画像です。今後差し替え予定。 鞘にグルグル巻きついたような鞘塗ですな。 今のところ凍桜/紫旋の黒呂地に黒石目蛭巻と、 伊達政宗拵の「蛭巻模様の上から刷毛塗り」という謎塗装以外は例がありません。 他の色は…全く不明です。 黒呂塗り、コジリ付近のみ梨地 2種合成鞘塗り。黒呂鞘の先っぽだけ梨地が出ています。曇華の鞘ですな。 他の梨地でも出来るみたいです。 (`ー´)<黒呂は固定だろうけどね。 コジリ付近のみ飛沫 鞘の先だけ飛沫が付いた鞘塗です。 今のところ枝蓮の金飛沫の他、特注で銀飛沫を試したことがある以外は不明です。 既述の鞘全体飛沫に比べると、かなり大人しめになることが多いです。 (`ー´)<派手に出ることもあるけどな。 切り返し 鞘の中ほどで斜めに境目が入り、二色塗りになった鞘塗です。 凍桜/○斜シリーズなどで黒呂+ラメ塗りを色々試しました。また、拵短刀で黒呂+潤み塗りもやりました。 また、組み合わせには制限がありますが、黒呂のほうも他の色に変更可能です。 金ベタ塗り/銀ベタ塗り 元々下地用の金銀らしいのですが、敢えてそれのみで塗装した鞘塗です。 ラメ塗りのような派手さはなく、落ち着いた色合いになっています。 (;´ω`)<金銀なのに落ち着いたとはこれいかに。 ツヤ無し単色塗り 元々は豊臣秀吉拵、石田三成拵の鞘塗を下地のみにした、という鞘塗です。 元が元なので現状赤と緑しかやったことがありませんが、他の色でも同じ様に出来る…可能性はあります。 というわけで以上、とりあえずある程度バリエーションを試したことがある鞘塗各種でした。 まぁ、複数の塗り方のコンボとかもありますんで、更に本気で細かく紹介しようとするとキリがなくなったりします。 |